最高裁判所第一小法廷 昭和35年(秩ち)3号 決定 1960年9月21日
主文
本件特別抗告を棄却する。
理由
本件特別抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりである。
理由第一点、第三点、第四点及び第五点について。
法廷等の秩序維持に関する法律(以下単に本法と略称する)によって裁判所に属する権限は、直接憲法の精神即ち司法の使命とその正常適正な運営の必要に由来するもので、司法の自己保存、正当防衛のために司法に内在する権限であり、本法による制裁(本法二条による監置決定およびそのための保全処置である同法三条二項による行為者の拘束等)は、従来の刑事的行政的処罰のいずれの範疇にも属しないところの、本法によって設定された特殊の処罰であって、裁判所または裁判官の面前その他直接に知ることができる場所における現行犯的行為に対し、裁判所または裁判官自体によって適用されるものであること、従ってこの場合は令状の発付、勾留理由の開示、訴追、弁護人依頼権等刑事裁判に関し憲法の要求する諸手続の適用が排除されるものであることは、既に当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二八年(秩ち)第一号、同三三年一〇月一五日言渡、刑集一二巻一四号三二九一頁)。従って制裁の対象となる者は、いやしくも裁判所または裁判官の面前等において本法二条所定の言動をなす限り、それが被告人であると弁護人であるとはたまた一般傍聴人であるとを問わないのであり、また、制裁を科する裁判の手続は必ずしも公開の法廷ですることを必要としないものであることは、前記判例の趣旨とするところである。所論各違憲の主張は採るを得ない。
同第二点について。
本件は特別抗告申立人を監置処分に処した第一審の決定についてなされた原決定に対する特別抗告であるから、本法三条二項の違憲を主張する本論旨は、原決定に対する適法な抗告理由に当らない。(なお、同条同項によって行為者を拘束することは、本法二条による監置決定の保全処置であって憲法に違反するものでないことは前掲判例の示すとおりである。)
同第六点、第七点について。
所論は、原決定の認定非難に帰するか若しくは原審で主張判断のない事項を当審ではじめて主張するにあって、原決定に対する適法な抗告理由に当らない。
よって、法廷等の秩序維持に関する法律九条、法廷等の秩序維持に関する規則一九条、一八条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)